「長期間住んでくれる入居者」は実際どうなの?大家目線で考えてみる。

2026-06-14

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「長期間住んでくれる入居者」は実際どうなの?大家目線で考えてみる。


大家さんにとって「長く住んでくれる入居者」は、空室リスクや広告費を抑えられる最高のパートナーに見えます。しかし、10年、15年と住み続けた長期入居者が退去した瞬間、その部屋は「家賃の大幅なギャップ(下落)」と「莫大な原状回復コスト」という2つの爆弾を抱えた状態に変わります。

「ずっと満室で優良物件だと思っていたのに、退去されたら一気にキャッシュフローが赤字に転落した」というケースは珍しくありません。

本記事では、長期入居者が退去した部屋のリアルな実態と、大家さんが取るべき具体的な防衛策を、実際の数字と国土交通省のガイドライン(事実)を交えて専門家視点で徹底解説します。


Q. 長期入居者が退去した部屋はどうなるの?

A. 結論、家賃を当時の相場のまま維持していた場合、退去後の家賃は「15%〜30%の大幅下落」に直面します。さらに、10年以上の入居であれば、原状回復費用として「家賃の6ヶ月〜10ヶ月分(50万〜100万円以上)」の想定外の巨額コストが一度に発生します。

長期入居のメリットである「安定」の裏には、退去時に一括して請求される重いコストのツケが隠されています。これを想定内に収められるかどうかが、賃貸経営の成否を分けます。


Q. なぜ長期入居者が退去すると、そんなに家賃が下がるの?

A. 「新築プレミアム」が完全に消失している一方で、現役の入居者は「入居当時の高い家賃(過去の相場)」を払い続けていたため、退去した瞬間に現在のリアルな市場相場まで一気に引き下げざるを得ないからです。

日本の不動産市場における賃料は、築年数の経過とともに下落していくのが一般的です(築浅エリアや都心の一等地など一部例外を除く)。

【家賃相場の推移イメージ】
新築時:10万円(新築プレミアム)
5年後:9.2万円
10年後:8.5万円(長期入居者が退去すると、ここで一気に1.5万円下落)
15年後:7.8万円

事実:築年数に伴う賃料下落率の現実

三井住友トラスト基礎研究所などのデータによると、首都圏の賃貸マンションにおける家賃は、新築から築10年までに毎年約1%〜2%のペースで下落し、築20年を過ぎるまでは緩やかに下がり続けることが実証されています。

解説:「家賃の固定化」がもたらす錯覚

例えば、15年前(新築時)に家賃10万円で入居した人がいるとします。この入居者は15年間、ずっと10万円を払い続けてくれます。大家さんとしては「ありがたい」と感じるでしょう。

しかし、その間に周辺の同じような物件の相場は、築年数の経過とともに7.5万円〜8万円まで下がっています。

入居者がいる間は家賃を維持できますが、退去した瞬間に、次の入居者を募集するためには「現在の市場相場(7.5万円〜8万円)」まで一気に20%以上も家賃を下げざるを得ないのです。これが長期入居者の部屋が直面する「賃料ギャップの現実」です。

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Q. 10年以上住んだ部屋の原状回復費、大家の負担割合はどれくらい?

A. 結論、クロス(壁紙)やクッションフロアなどの内装材に関しては、大家の負担割合が「100%(入居者負担は0%)」になります。10年以上の入居の場合、経年劣化によって大半の設備の残存価値が「1円」になるためです。

「長く住んで汚くなったんだから、リフォーム費用は退去者に請求できるのでは?」と考えるのは大きな間違いです。賃貸経営において、退去時の費用負担は国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によって厳格にルール化されています。

事実:ガイドラインが定める「減価償却(耐用年数)」の仕組み

ガイドラインでは、室室内設備や内装材ごとに「耐用年数(価値が1円になる年数)」が設定されています。

設備・内装材 ガイドライン上の耐用年数 10年入居時の入居者負担割合
クロス(壁紙) 6年 0%(残存価値 1円)
クッションフロア(CF) 6年 0%(残存価値 1円)
エアコン・給湯器 6年 0%(残存価値 1円)
畳床・カーペット 6年 0%(残存価値 1円)

解説:わざと壊した傷(故意・過失)であっても「1円」

例えば、入居者が壁に大きな穴をあけたり、タバコのヤニで真っ黒に汚したりした場合でも、入居期間が10年を超えている場合、そのクロスの価値はすでに「1円」です。

そのため、大家さんが入居者に請求できるのは、「クロス全体の貼り替え費用」ではなく、「穴をあけた箇所の補修にかかる、ごくわずかな作業工賃(職人の手間賃分など)のみ」となります。

結果として、10年以上の長期入居者が退去した部屋の修繕費(クロス全面貼り替え、床の修繕、水回りのクリーニング、場合によってはエアコンや給湯器の交換)は、その9割以上を大家さんが自腹で負担することになります。ファミリー物件であれば、簡単に50万〜100万円のキャッシュが吹き飛びます。


Q. 次の入居者を決めるために、どんなリフォームが必要になるの?

A. 単なる「原状回復(元の状態に戻す)」では不十分です。10年前〜15年前の設備デザインは現代の入居者ニーズに合わないため、「設備仕様のアップデート(近代化)」が必須になります。

10年〜15年という歳月は、賃貸市場の「トレンド」を大きく変えます。ただ綺麗にするだけでは、家賃を下げても次の入居者は見つかりません。

1. 間取り・内装のトレンド変化

  • 10〜15年前:茶色い濃い木目のフローリング、3DKなどの細切れの間取り。
  • 現代のニーズ:白やライトグレーを基調とした明るい内装、開放的な1LDKや2LDK。

細切れの和室がある部屋は、畳をフローリングに変更し、間仕切りを撤去して「広々としたLDK」へ変更する間取り変更リフォームが必要になるケースが多いです。

2. 必須設備の追加

15年前には「あれば嬉しい」程度だった設備が、現代では「なければ検索条件から外される(必須設備)」に昇格しています。

【現代の賃貸市場で必須とされる設備リスト】
* インターネット無料(Wi-Fi完備)
* カラーモニター付きインターホン
* 温水洗浄便座(ウォシュレット)
* 宅配ボックス(共用部)
* 追焚機能付きバス

これらを未導入のまま放置すると、不動産ポータルサイト(SUUMOやホームズなど)の条件検索でチェックを入れられず、ユーザーの画面にすら表示されないという致命的な機会損失に繋がります。原状回復費用とは別に、これらの設備導入費用としてさらに20万〜40万円の投資が必要になります。


Q. 長期入居者の退去リスクに備えて、大家が今すぐできる対策は?

A. 「修繕引当金の毎月積立」を徹底し、2年ごとの更新時に「周辺相場のチェック」と「マイルドな賃料交渉(または設備サービス)」を行うことです。

長期入居者の退去は防げませんが、「突然の退去で黒字倒産するリスク」は事前の準備で完全に回避できます。

対策①:毎月、家賃の5%〜10%を「修繕引当金」として別口座に隔離する

多くの失敗する大家さんは、毎月の家賃収入をすべてキャッシュフロー(利益)と勘違いして使ってしまいます。家賃8万円の部屋であれば、毎月4,000円〜8,000円を「この部屋の未来の退去費用」として、絶対に手をつけない専用口座へ積み立ててください。10年間で48万〜96万円が貯まり、退去時のリフォーム費用を完全にカバーできます。

対策②:更新時に「エアコン交換」などのフックで家賃維持・微減で着地させる

入居期間が長くなると、入居者側も「隣の部屋、自分より2万円も安く募集されてるな…」と気づき、退去の引き金になります。2年ごとの契約更新のタイミングで、大家側から「いつも綺麗に使っていただいているので、今回の更新を機に、最新の省エネエアコンに無償で交換します(または家賃を2,000円下げます)」といった提案を先手で打つのも有効です。完全に退去されて家賃が2万円下がり、100万円の修繕費がかかることに比べれば、数万円のエアコン投資でさらに数年住んでもらう方が、トータルの投資リターン(ROI)は遥かに高くなります。

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結論:長期入居は「利益の先送り」。退去時のリプログラミングが成否を分ける

長期入居者がいる期間は、確かに「運営コストがかからない黄金期」です。しかし、それは決してコストが消えたわけではなく、「退去時に支払うべきツケが将来に先送りされているだけ」という認識を強く持ってください。

  1. 家賃下落(15%〜30%)を見込んだ事業計画の再シミュレーション
  2. ガイドラインに基づく、大家側9割以上負担の修繕費用の準備
  3. 現代ニーズ(ネット無料・モニターホン等)に合わせた設備投資

この3点を、退去通知が来る前から予測し、動ける状態を作っておくことこそが、長期にわたって安定した賃貸経営(不動産投資)を続けるための唯一の鉄則です。


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